●背中 始 謎
フェアバンクス中心部の桟橋。
アイザック=ハックスレーは、まだ午前のゆるやかな陽射し反射する海面を―――
そしてその先に設けられている貿易港の様子を、瞬きも忘れ見つめていた。
朝の真新しい空気が、肺いっぱいに満たされるのを感じながら、
周囲の環境を全身で観測する。
テラフォーミング星にしては、思いのほか清浄な空気の味に、心地良さより先に驚きを覚える。
小さな身長。歳は12。
ひょろりとした白肌痩身の少年は、頭にキャップ帽、トレーニングジャージに身を包んでいる。
持ち物は、後ろ下げのショルダーバッグのみ。
何が入っているのか、外面からは分からないものその膨らみの小ささから察するに、
大したものは入っていないことが見て取れる。
すると片耳穴に装着していた耳携式の端末から、
ピラピラリン~☆。
というあざとい効果音と共に、少年の名前を呼び留める、甲高い少女の声が聞こえてきた。
「ザック~全部調べたんだけどねぇ、やっぱり全部予約でいっぱいだったよん☆」
本当の少女が発声しているような、きわめて流暢なイントネーションのAIボイスがザックの耳元で話す。
電脳妖精サイバー・ピクシーのシエラは、
アイザック少年の一人旅を電脳ネットワーク世界より賑やかに支える、助手バディだ。
現実世界のザックに、ネットワーク内を巡回してきた結果を伝えてきたのだ。
「う~ん、そっか。」
アイザックは耳奥から聞こえてきた、電脳少女の声に静かにそう返答した。
「これからどうする?」
「そうだね、まぁちょっと予想はしてたけどやっぱりダメだったか。
この時期に惑星メテラ行きの便はやっぱ厳しいよね、」
「じゃあじゃあわたし、もう少しフェアバンクス(ここ)のネットワーク中を泳いできていい?」
「うんいいよ、便がないんなら仕方ない。今日一日はフェアバックス(ここ)をもう少し楽しもう。」
「やったーっ!」
「じゃあどこから行こうか?」
元気な独り言を言い続けるインターフェースとぶつぶつと話しを続けるアイザックは、
傍から見ると独り言を言っているように見えたため、
背後を通りゆく幾らかの人は、おもわず不審な目を向けながら通り過ぎていく。
しかし当の本人のザックは、そう見られていることを全く気にする素振りを見せなかった。
■目 開 終