意識を脱(おと)したその亡躰(なきがら)を、
静かに自分の頰にたぐり寄せた。
心を凍て射すような、レナ冷肌(れいき)のが、
温かみを識りつつあったレディの心身に、
過重なまでの悲愴を圧し加えた。
不思議と、涙は出なかった。
それよりもレディは、胸の奥の蠢きを
感じていた。
久々に感じる憤(いか)り。
哀しみという瑞々しい情類よりも、
怒りという激しい感情に、レディの心は染まっていた。
彼女のうなじと膝裏に手を入れて
持ち上げ、彼女の好きだった木陰にその躰を
立てかける。
一筋の風が吹き、血に濡れたレナの髪が、
穏やかに揺れた。
その様子を無表情で見つめるレディは、
穏やかに眠るその彼女に、背を向けて
歩き出した。
平穏のなかで消えかけていた、
蒼い死炎(ほのお)が、再びその灼熱を呼び醒ました。