「ディル、キミはもう私たちの家族だ。
家族は助け合うものだ。だからいつでも助けになる」
そんな義父ルイスの言葉が脳裏をよぎる。
他人に何かを頼んだりするのは苦手だ。
それに家族というものもよく分からない。俺は生まれた時から
アルカディアという偽りの理想郷の中に捕らわれていた。
誰しもが母親がおり、父親がいて、時には兄弟姉妹だっているはずだ。
でも俺に、最初からそんな存在は一人もいなかった。
だから最初は何一つ要求せずにいたディルクだったが
数年前、初めてと言っていい第一号の要望は、
――1人で暮らせる場所が欲しい――だった。
そんなことを考えているうち、義理姉という名の同い年の女
ワイダとの約束の場所に付いた。
だがすぐに、ディルはある違和感に気が付く。
ワイダの横には、怪しげな二人の男が立っていたからだ。
ただ怪しいとは思っていても、その二人はディルも顔なじみである。
一人は赤髪の男・レディアント。
二人目は長身で、逆立つ黒髪が特徴的な男・クロード。
→挿入 二人のイラスト
いずれも、ヴァレンタインファミリーの側近である。
その二人は黒のスーツに身を包み、ワイダの横を守衛するように付き添っていた。
近づいていくとワイダがディルの接近に気が付く。
「ああディル、ようやく来た」
ワイダはそう言うと、横にいた二人に”帰っていい”という具合に目配せを送った。
主人にそんな視線を送られた側近二人は、それを察すると何一つ言葉をこぼさず、静かに去っていった。
こうしてボディーガードを雇えるのも、ルイスの持つ力のおかげなのだろう。
そんなことを考えながらぼんやりとしていると、
「ディル?平気?」
小柄なワイダが、上目遣いでこちらを見上げてきた。
「何が?」
「”スペクター”の手がかりがつかめるかもしれない。
でもあくまで冷静でいてほしい」
「そんなこと、言われなくても分かってる。」
ディルは心配そうなワイダをよそにそんな二つ返事を返した。